地震や台風、大雨、大雪といった自然災害によって電力供給がストップした場合でも、スマホの充電や家電製品の使用が可能となるポータブル電源が、急速に売り上げを伸ばしています。私がこのサイトを作成し始めた背景には、東日本大震災で家族を失うという痛ましい経験があります。

便利なポータブル電源ですが、本質的には大容量のバッテリーを積んでいる、危険も内在する製品であることを忘れてはなりません。その利便性と引き換えに、発火事故などのリスクが潜んでいます。

実際、ポータブル電源の購入を検討している方の中には、その安全性について不安を感じている方も少なくありません。しかし、ポータブル電源の普及が進んでいるにもかかわらず、どうしてこのような状況が続いているのでしょうか。

その原因として、いくつかの点が挙げられますが、中でも注目すべきことにポータブル電源は「電気用品安全法」の規制対象となっていないという事実があります。つまり、現時点では、安全性に問題のあるポータブル電源が市場に流通するのを事前に阻止するメカニズムが存在しないのです。危険な製品を購入しないように、購入者自身がしっかりとした選択基準を持つことが重要となります。

このページでは、その対策法ではなく、実際に起きた火災や発火事故の事例を集約していきます。その事例から何かしらの共通点や原因が見つかるのではないかと考えています。ある程度の事例が集まれば、「ポータブル電源を扱う際に避けるべき行為」が明らかになることでしょう。

「電気用品安全法」の規制対象となっていないという点、PSEマークについては別記事「ポータブル電源の安全性や規制について」で解説をしています。

消費者庁の担当者は「ポータブル電源は、災害時の備えなどのために広く販売されている製品で一概に危険というわけではない」と話しています[1]。危険性を喚起しつつ、しっかりしたメーカーから購入し、「定められた使い方をすれば安全である」ことを伝えていきたい、と思ってます。

ポータブル電源の事故情報(2023/06/26更新)

工業製品の事故情報は、「独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)公式サイト」で確認することができます。

消費生活用製品安全法の重大製品事故には該当しないが、重大製品事故に準ずるものとして、 事業者や消防等からの通知を受けた情報を登録しています。製品起因かどうか原因究明中の事故を含んでいます。

独立行政法人製品評価技術基盤機構

以下の表はNITE公式サイト内の事故情報(2023/06/26現在)をまとめたものです。クリックすると大きくなります。

ポータブル電源の事故情報(2023/06/12更新)
ポータブル電源の事故情報(2023/06/26更新)

登録されている事故は6年間(2017年〜2023年)で28件でした。この記録は調査が完了したものだけです。実際には、調査中のものを含めるともう少し事故件数が多くなります。

このリストから学べることをまとめてみましょう。

『購入する際は、信頼できるメーカーから購入し、レビューや評価を確認しましょう。安価であることだけで購入すると、品質が低い製品を手に入れる可能性があります。また、オークションでポータブル電源を購入するのは避けるのが無難です。大半のメーカーは保証が受け継がれません。』

注意点:事故は充電時に多発しています。

  1. 充電中や使用中のポータブル電源の近くで異音や異常な熱を感じた場合は、すぐにその場を離れ、安全な場所に移動してから、消防署などの適切な機関に連絡しましょう。
  2. ポータブル電源の充電は監視可能な場所で、火災を引き起こす可能性のある物品から離れた場所で行うようにしましょう。

原因:バッテリー内部の問題が大半です。

  1. 事故の大半は充電中のポータブル電源からの出火によるもので、これは電源の内部の電池が過熱したり、ショートしたりすることによる可能性があります。
  2. いくつかの事故は使用中に出火しており、これは電源の過負荷、過熱、または電池の構造上の問題による可能性があります。
  3. ネット通販やオークションで購入したポータブル電源に関連する事故が多く報告されており、これは製品の品質や安全性が保証されていない場合があるためと考えられます。

結果:リチウムイオンバッテリーが発火すると被害が甚大になる。

  1. すべての報告では、ポータブル電源の出火により、その周囲が焼損しています。これには個人の財産だけでなく、飲食店や倉庫、自動車、住宅などの公共の場所も含まれています。
  2. いくつかの事故では、出火により人々が火傷を負ったと報告されています。
  3. これらの事故は全国各地で発生しており、特定の地域に限定された問題ではないことがわかります。

リチウムイオン蓄電池は可燃性の電解液(多くが第四類第二石油類に該当)が
使用されているため、火災等が発生した場合には、電解液や可燃性ガスがセルの
外部に噴出・着火し、激しく火炎を噴き出す潜在的な危険性がある。

蓄電池設備のリスクに応じた防火安全対策検討部会報告書(総務省)

事故後の処理:製造者や輸入事業者が不明で責任を追求できず

  • 多くの事故後の対策が行えないケースでは、製造者や輸入事業者が不明であったり、既に廃業していたりすることが原因となっています。これは、製品購入時に製造者や販売者の信頼性を確認することの重要性を示しています。
  • 製造者が特定できたケースでは、製造者が積極的にリコールや無償交換を行って再発防止に努めています。
  • 経済産業省がホームページに情報を掲載し、ネットショッピングモール等への注意喚起を行っています。これは、消費者が自分自身を守るためには、公的な情報源から得られる情報にアクセスする重要性を示しています。

一例として、充電式掃除機用として販売された純正品でないバッテリーパックによる火災事故が短期間に相次いで発生した際の、モール運営事業者による販売事業者に対する注意喚起と販売停止措置がある。

インターネット取引における製品安全に関する提言(経済産業省)

総務省消防庁リポート:2021年以降のポータブル電源事故

ここまで提供してきた情報は、「独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)公式サイト」からのもので、完全に調査が終了した事故情報のみが掲載されています。このため、過去2年間の新たな事故情報はまだ公開されていません。これは調査に膨大な時間が必要なためです。

そこで、最近発生したポータブル電源関連の事故について探ってみたいと思います。そのために参照するのは「総務省消防庁」のウェブサイトです。ここでは、年間の事故記録や短期間スパンでの通告など、様々な資料を確認することが可能です。

データを照らし合わせてみると、2020年までの事故については全ての調査が完了していました。しかし、2021年以降の事故については、まだ調査が完了していないものも見受けられます。そのため、以下に掲載する表には、まだ調査途中の事故も含まれています[2][3]

年度社名型番備考
2021ヤマハ発動機株式会社X0T-82110-00
2021株式会社アイパー・ジャパンELECTRO500下記の社告等により示された不具合によるものである。
【関連HP】https://www.recall.caa.go.jp/result/detail.php?rcl=00000028219&screenkbn=01
2021シンセンハニーバッテリーHY-1100
2021メイヤンパワー新エネルギー有限公司PS5B(推定)下記の社告等により示された不具合によるものである。
【関連HP】https://www.recall.caa.go.jp/result/detail.php?rcl=00000019401
2022EcoFlow Technology Japan株式会社EFDELTA1300-JP
2022株式会社SUNGAHY-1100
2022茂腾电子科技有限公司CS-CN500製造事業者により、日本に流通している当該製品899台、全台の自主回収を実施予定。
2022ELECAENTA不明

社名だけでは製品内容がわからない「茂腾电子科技有限公司」を調べてみました。同社はポータブル電源のOEM生産を手がけています。下記にその製品群を掲載します。以前、頻繁に見かけたデザインの製品も確認できますね。

備考欄に「製造事業者により、日本に流通している当該製品899台、全台の自主回収を実施予定。」と記載されています。しかし、同社がOEMとして生産し、カラーなどを変更して販売しているメーカーについては、現時点での調査では、回収行動が確認できません。

CS-CN500

消費者庁 事故情報データバンク

事故情報データバンクシステム(消費者庁)」の情報は、上記の総務省消防庁リポートより詳細なデータが掲載されています。ただし、その情報は検索しにくい形式となっているため、特定のメーカー名などに対してピンポイントの検索を行うことを推奨します。このデータベースには、我々がこれまでに掲載してきた事故情報と重複するものも含まれています。情報が一元化されていないので不便ですね。

消費者安全法に基づいて消費者庁が集約している情報で、 地方公共団体、各省庁等から通知され、 重大事故等として公表した事故情報(原因究明中の事故を含む) 及び消費者事故等として通知さ れた事故情報(事実確認(因果関係の精査等)を経ていない情報を含んでいます)を登録しています。

消費者庁

「事故情報データバンクシステム(消費者庁)」でポータブル電源の事故を検索し、メーカー名が記載されている事例をまとめた表を以下に示します。日付のリンクをクリックすると、詳細な事故情報ページに移動します。全事故情報を確認しましたが、メーカー名が記載されていない事例が全体の90%以上を占めています。ここで掲載しているメーカーの製品が危険であると見えるかもしれませんが、それはメーカーが特定できる事例が珍しいだけとも言えます。

日付社名型番事故の概要
2017年06月30日高山企画(株)PS5B当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2017年08月22日高山企画(株)PS5B飲食店で当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2017年10月06日高山企画(株)PS5B倉庫で当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2018年05月09日高山企画(株)PS5Bネット通販で購入したポータブル電源を充電中、ポータブル電源から出火し、周辺を焼損した。
2019年06月08日高山企画(株)PS5Bポータブル電源から出火して周辺を焼損し、1人が火傷を負った。
2019年08月30日株式会社エムケートレーディングHY1100事務所で当該製品を充電中、当該製品から発煙する火災が発生した。
2019年10月01日高山企画(株)PS5B当該ポータブル電源(リチウムイオン)を焼損する火災が発生。
2019年10月11日有限会社四国ソウビPS10B-1200当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2019年11月05日高山企画(株)PS5B接骨院で当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2019年11月25日株式会社イデアルSGR-CN26AH3011NC当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2020年04月16日高山企画(株)PS5B当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2020年06月02日株式会社エムケートレーディングHY1100車両内で当該製品を焼損する火災が発生した。
2020年06月10日高山企画(株)PS5Bネット通販で購入した充電中のポータブル電源から出火して周辺を焼損し、軽傷を負った。
2020年09月05日株式会社アイパー・ジャパンELECTRO500ネット通販で購入したポータブル電源を充電中、ポータブル電源付近から出火し、周辺を焼損した。
2020年09月30日株式会社PIFLB-1200事務所で当該製品の電源スイッチを押したところ、当該製品を焼損し、周辺を汚損する火災が発生した。
2020年11月01日株式会社Jackery JapanJackery ポータブル電源700当該製品を焼損する火災が発生した
2021年01月05日本田技研工業株式会社Lib-AID E500車庫で当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2021年01月21日ハイガー産業株式会社hg-P01当該製品を焼損する火災が発生した。
2021年01月25日加島商事株式会社SmartTap PowerArQ事務所で当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2021年01月25日高山企画(株)PS5B充電中のポータブル電源付近から出火し、周辺を焼損した。
2021年06月09日株式会社アイパー・ジャパンELECTRO500ネット通販で購入した充電中のポータブル電源から出火し、周辺を焼損した。
2021年07月06日エスケイジャパン株式会社SKJ-MT1000SB当該製品を分解して組み立て直したところ、当該製品を焼損する火災が発生した。
2021年08月10日株式会社グッド・グッズSPI-54AT当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2021年08月17日株式会社アイパー・ジャパンELECTRO500ネットオークションで購入したポータブル電源を充電中に出火し、車両と住宅を焼損した。
2021年11月23日株式会社SUNGAHY-1100当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2022年01月06日株式会社SUNGAHY-1100事務所で当該製品を充電中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2022年03月17日EcoFlow Technology Japan株式会社EFDELTA1300-JP車両内で当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
2022年06月08日株式会社グッド・グッズSPI-54AT当該製品を充電中、当該製品を焼損する火災が発生した。
2022年06月12日株式会社グッド・グッズSPI-54AT当該製品及び周辺を焼損する火災が発生し、1名が軽傷を負った。
2022年08月07日EcoFlow Technology Japan株式会社EFDELTA1300-JP当該製品を充電中、異音がしたため確認すると、爆発を伴う火災が発生し、当該製品及び周辺が焼損していた。

発火事故の個別事例

今までに見てきたウェブサイトで、記録されている発火事故のうちの多くが「PS5B」という同一品番。

メイヤンパワー新エネルギー有限公司「ポータブル電源「PS5B」用ACアダプター」使用中止(消費者庁)

製造・輸入・販売業者が不明なものが多いです。タオバオなどで適当にOEM製品を作り、製造ロット分を売り払ったら会社を解散してしまうのでしょう。こういった会社には当然是正勧告も懲罰も何もありません(連絡先がないから)。

つまり、得体の知れない会社の製品に2年保証や故障品の交換がついていても無駄ということです。


Jackery ポータブル電源 700の事故原因を見てみましょう。

事故発生日は2020年11月1日。2021年4月25日に発売終了しています。

→ Jackeryポータブル電源700販売終了のお知らせ

調査の結果、○使用者は、事故発生前にキャンプで当該製品を使用した後、自宅にて充電を開始し、6~8時間経過した頃、「パチパチ」と音が出始めたため、ACアダプターのDCプラグを外したが異音は止まらず、約30分後に大きな破裂音と共に発煙し、出火した。○当該製品の樹脂製外郭は著しく焼失しており、樹脂製外郭の底面及び側面の一部が残存し、製品内部は底面部と背面部が著しく焼損していた。○当該製品に60個内蔵されていたリチウムイオン電池セルは著しく焼損し、確認できた53個の電池セルのうち、43個は焼損が著しく、外装缶及び一部の封口体のみが確認できたが、電極体は確認できなかった。○充放電制御基板の焼損は著しく、ほとんどの電気部品は脱落していたが、銅箔パターンの溶融や基板の欠損は認められなかった。○インバーター基板の焼損は著しく、基板の約2/3が欠損し、ほとんどの電気部品は脱落していた。○制御基板は著しく焼損し、ほとんどの電気部品が脱落して銅箔パターンの一部が欠損していた。○ACアダプター本体及びDCコードに出火の痕跡は認められなかったが、ACコードに断線及び溶融痕が認められた。●当該製品は、内蔵のリチウムイオン電池セルから出火したものと推定されるが、電池セルの焼損が著しく、確認できない部品があったことから、製品起因か否かを含め、事故原因の特定には至らなかった。

独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)公式サイト

使用者に著しいミスはなさそうですね。


事故件数が1件のELECTRO 500はリコールになっています。Freeman500へ無償交換になってますね。会社がしっかりしていれば、こういった対応をしてくれます。

アイパー・ジャパン 「ELECTRO 500」無料交換(リコール)のお知らせ

製品寿命が終わるまで会社が存続しそうなブランドから購入するというのも危険回避の一つかもしれませんね。2023年現在、アイパージャパンは公式サイトも消滅し、存在が確認できません。


NITEに登録されていない事故・発火もちょこちょこあります。Twitterで見かけたものを添付させていただきます。

https://twitter.com/calcifer_akari/status/1617863483009437697

メーカーさんの対応は素晴らしいものでした。工業製品なので故障はゼロにはならないと思います。

差があるとしたらメーカーさんの対応です。有耶無耶にせず、誰もが閲覧できる場で説明するのはメーカー選択の安全材料でしょう。

ポータブル電源の事故ニュース記事のスクラップ

最終更新日:2023年7月29日

ネットニュースで見つけたポータブル電源関連の事故をスクラップしていきます。

日々、事故が起こるわけではないので月に1回の頻度で更新します。

ポータブル電源の事故回避のため参考になる記事のスクラップ

ポータブル電源を安全に扱うための参考になれば。

まとめ

今後も毎月一回更新していきます。

リン酸鉄リチウムイオン電池搭載のポータブル電源が主流となりつつある今日、それでもまだ多くの人々が三元系リチウムイオン電池製品を使用しています。これらの製品が寿命を迎え、処分を必要とする時期がやってくるでしょう。その際、正しい廃棄・処分方法が重要な問題となります。

参考記事:【最新版】不要になったモバイルバッテリやポータブル電源、どうやって処分する?(PC Watch 山口 真弘/2023年3月13日)

ポータブル電源を選ぶ際には、安全性、寿命の長さ、製品のメーカーの信頼性や継続性などを考慮することが重要です。これらの要素を考慮することで、ポータブル電源の使用におけるリスクを最小限に抑えることができます。

もし最新の安全性が高いポータブル電源を探しているなら、リン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した製品がおすすめです。この種のバッテリーはリチウムイオン電池よりも安全性が高いとされています。

パワーバンクスではメーカーの信頼度を考慮に入れ、厳選したリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載したポータブル電源リストを作成しました。これらの製品は我々の厳格な基準をクリアし、推奨するに値すると考えています。

脚注

↑1 ポータブル電源の異常発熱に注意、横浜市では火事3件 注意点は?

↑2 令和3年1月から令和3年12月までに発生した製品火災に関する調査結果(総務省 報道資料)

↑3 令和4年1月から同年9月までに発生した製品火災に関する調査結果について(総務省 事務連絡)